手遅れにならない為に(抜歯をしたくない方へ)

抜歯をしない為に

当院では、抜歯は命を守るための最終手段だと位置づけており、極力本人の歯を温存したいと考えております。そのため、歯周病の際は「歯周外科処置」「歯周組織再生療法」等虫歯、破折(歯が折れた)の際には「歯冠修復治療」「歯内治療」等の歯科治療を行うことで、最大限歯を温存することを目指しています。

しかし重度の歯周病を起こしている場合にはどうしても人間同様、抜歯が適応となる場合があります。
抜歯をする・しないの決定には「病的要因」と「ホームケア的要因」(ホームケアができるかどうか)この2つが大きく関わります。

病院の治療だけではダメで、この2つの要因をコントロールして初めて歯周病治療は成立するのです。

予防治療は「両輪」『病院:病的要因=歯周病治療』『家:ホームケア的要因=歯ブラシ』

色々な考え方

  • 極力全ての歯を残したい(状況によっては再生療法や歯内治療をしてでも)
  • 機能的に大事な歯は残したい(非機能歯は犠牲になってもらうことは受け入れる)
  • 今後麻酔をかけたくない
  • 歯ブラシを毎日行うことは難しい

など、状況に応じた治療プランをご提案します。

初回治療時と一年後の比較画像

初回治療時は歯の根の分かれ目の所が黒い=骨が溶けている
これは一般的に根分岐部病変3度と呼ばれ、抜歯も検討される。
しかし徹底的な治療と徹底的なブラッシングで1年後のレントゲンでは歯の根の別れ目の所が白くなっている=骨が再生している。(このケースは根分岐部病変3度だったため、適応外のため再生材料を使用しておりません)

なぜ年1回麻酔をかけてでも
メインテナンスをした方が良いのか?

人でも最低半年から1年に1回のメインテナンスが推奨されるように(3ヶ月毎を推奨されるケースもあるようです)、犬猫でもメインテナンスは必要です。
人ほどの十分な歯ブラシができないことを考えれば、人より早いペースでメインテナンスが必要ではあるのですが、動物では全身麻酔をかけての処置が基本ですので、半年~1年に1回が妥当なラインであろうと考えられています。
今では、全国各地から年に1度のメインテナンスを受けに来ていただく方が毎年増えています。

歯ブラシがどれぐらいできると
どれぐらいのメインテナンス期間で
よくなるかの目安

  • 磨けない
  • 半年に1回
  • 歯磨きガムやマウスウォッシュ剤など、歯全体には摩擦が起きない口腔ケアのみ
  • 半年に1回
  • シート磨き、歯ブラシ時々
  • 半年~1年に1回
  • 歯ブラシ毎日
  • 1年に1回
  • 毎日の徹底した歯ブラシ
  • 1~3年に1回

あくまで目安です。体質的に早く悪くなる子もいれば、悪くなりにくい子もいます。


  • 歯周病は一度なってしまうと完全に正常な状態に戻ることは基本的に無い(再生治療を行なったとしても)
  • 人でも重度歯周病は抜歯→インプラント
  • 自然治癒はない=早め早めで病気になる前のメインテナンス
  • 正しい治療としっかりしたブラッシングで再生治療を行わなくても骨が再生するケースすらある!
    =正しい治療とケアの両輪があれば抜歯せずに済むケースもある

2-3才で最初の歯科処置(麻酔)
をおすすめします

当院では毎日のように歯科治療を行なっていますが、6才以上でいらしていただく子では、抜歯が必要なレベルの重度歯周病(実際に抜くか保存療法を行うかは飼い主様と相談)が1本以上見つかる事を多く経験しています。飼い主様的には、「6才になったし、そろそろ歯石がついてきたから一回病院で歯石取りでもしてもらうか」というような気軽な気持ちでいらっしゃる方が多いのですが、歯周病は直接目で見ても獣医師でも見えない歯茎の中の病気なので、歯科用レントゲンを撮ってみると、見た目の歯石は少ないが、奥の骨がごっそり溶けてしまっているということも珍しくありません。

現状、手遅れになってしまっているケースが非常に多いのが実情です。(昔は動物の歯ブラシを毎日しなければいけないということを獣医師側もあまり認識していなかったことが原因と思われます)

「そんなに若い時点で本当に麻酔かけてまでやらなきゃいけないほどひどくなってるの?」と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、下記を想像していただければご理解いただけると思います。

イメージ

  1. ご自身の今の歯の状態を想像してください(舌で歯を舐めてイメージを強くしてください)
  2. ザラザラしていましたか?ピカピカでしたか?ピカピカだった人も、朝起きて歯ブラシする前の歯だったらどうですか?
    (おそらく皆さん歯を舐めてザラザラしている感じを経験されたことがあると思います。)
  3. この状態で歯を磨かずに1年過ごしたらどうなると思いますか?
  4. わんちゃん、猫ちゃんは多くの子が何年もその状態なんです。。。大丈夫だと思われますか?

歯の病気は、見た目だけでは誰も正確な診断はできません。歯科用レントゲンを撮影して初めてどれぐらい顎の骨が溶けているかが評価できます。

わんちゃん、猫ちゃんにも人間同様歯ブラシは必要なんです。動物は痛くても喋りませんし、行動にもよほど重度にならなければ現れません。
歯ブラシができなければせめて病院で定期的に歯科処置を受けさせてあげたり、麻酔ができない体なら可能な範囲でのケアを受けさせてあげていただきたい。
ヒズメを噛ませたり、無麻酔歯石取りをしても歯周病予防・治療にはなりません。。。

必要な抜歯をしないで残すとどうなるか?
責任は誰にある?

抜歯が必要なレベルの歯を闇雲に残すと。。。

  1. 顎が骨折してしまう
  2. 目の下に穴が空いて膿が出る
  3. 命に関わるような肺炎、心臓病、腎臓病、肝臓病等の全身病になる
  4. 鼻汁、鼻血が出る
  5. くしゃみが出る
  1. 痛みで食事が食べられなくなる
  2. 強い口臭がする
  3. ヨダレで顎が汚れるようになる
  4. 隣の歯までダメになる  etc...
歯の根っこの分かれ目が見えるほど進行した歯周病

このイラストのように歯の根っこの分かれ目が見えるほど進行した歯周病の歯を目に見える部分だけきれいにしてとりあえず歯を残す。

これだけで終わってしまうと非常にまずい処置です。

一見すると歯はきれいになっていて、口臭も減って歯が残るので飼い主様には満足頂けるかもしれません。

しかしこの状況で残すのであれば、ポケット内の徹底した歯周外科処置を含む清掃を行い、かつ、お家でのホームケアとしては外側と内側の歯ブラシはもちろんのこと、歯間ブラシで歯の分かれ目も磨かなければなりません。

できなければ結局この歯の、目には見えない根っこの部分で知らないうちに(見た目はきれいなので気づきにくい)歯周病が進行し、①〜⑨に示した病気に進行してしまう恐れがあるのです。

ですからこの歯はホームケアが歯間ブラシまでできるなら残すことも検討するが、できそうにないのであれば抜歯をオススメします。

歯周ポケットの深さ

責任は誰に?

歯を残す病院=良い病院、歯を抜く病院=悪い病院と考えられることが多いのですが、正直、飼い主様の要望に応えて歯を単純に残す。それ自体は非常に簡単なことです。(重度歯周病であっても)
しかし重度歯周病の歯をあえて残すと決めたからには獣医師には「徹底した見えない歯の根っこまでの清掃」や、必要に応じて「再生治療」といった治療をフォローアップを含めて行う責任が、飼い主様には治療した状態を保つため「毎日の歯ブラシ」や「半年〜1年に1回麻酔下メンテナンス」を受けさせてあげるという責任が、治療を受けるワンちゃん、猫ちゃんに対して生まれるのです!!!

その責任をお互いが十分に果たせるようであれば積極的に歯を残してあげることは本人にとって良いことだと思いますが、そこまでのケアが難しい場合には、上記したように闇雲に残した場合のデメリットを考えると、無理やり残しても本人を苦しめるだけになりかねないので、重度な歯周病の場合には抜歯も一つの選択肢だと思うのです。(当然重度かどうかは歯科用Xrayやプロービングといった詳細な検査を実施した上で診断します。見た目や、歯石の有無、歯が動くからということだけで判断することはありません。)

その子の数年先まで考えた治療を行うことこそが、目先歯を残すことよりも、その子の寿命を伸ばすことや、快適な生活を送らせてあげることに繋がると当院では考えております。