歯肉口内炎(尾側口内炎)
歯肉口内炎・猫
【正常な歯肉の色】
【歯肉が赤い猫:少し赤いだけにも見えるが…】
【歯肉が赤い猫:無治療で1ヶ月後。赤みが増している。】
口内炎は人ですら1つできただけで食事が食べづらくなるほど痛いですよね。 猫の場合、口内炎が1つどころでは無く、たくさんできたり、広い範囲が炎症を起こしたり、大きく腫れ上がってしまうことがあります。 その強い痛みに、痛いと訴えることもできずに耐えながらご飯を食べていることを想像すると、本当に辛いだろうなと可哀想に思ってしまいます。 しかも1歳以下でこの病気を発症してしまう子もいるのです。
【重症例では舌に潰瘍ができるケースも】
症状:口が痛そう、口から出血する、顔をこする、ヨダレが多い、前足がよだれで濡れている、口臭がきつくなる、あくびをすると痛そう、歯ブラシを嫌がるようになった、歯茎が赤い、毛づくろいしなくなる 食事が食べづらい、水や唾液も飲みづらい、放置すれば衰弱、脱水、腎不全や肝不全などで命を落とすこともあります。 特に猫では口内炎+腎臓病で苦しむ子が大変多く、腎臓病が重度になってからでは麻酔をかけての治療が受けられなくなることもあるため、 その場合、残りの一生をずっと痛いまま生活するか、リスクをはらんだステロイド治療を行なって痛みをごまかしていくかという選択を強いられる事があります。
原因:口腔内細菌、ウイルスの関与、免疫の異常などが疑われているが、はっきりとした原因は解明されていない。 口腔内の異物、傷、感染症(ウイルス[カリシ、ヘルペス、FIV、FeLV]、細菌など)、 アレルギー、免疫疾患、栄養欠乏、刺激性の薬品を口に入れる、腎臓病、糖尿病などで起こると言われています。特に免疫を抑制する猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)に感染すると、発症しやすく、難治性にもなります。
治療法: 内科療法(一生続く治療になる事が多い)
長期作用型注射 | 内服 | ||
ステロイド | メリット | 効果は大きい、1回打つと1ヶ月近く効果が持続、自宅での投薬が必要ない | 効果が出る事が多い、症状に合わせて薬の量を調節できる |
デメリット | 糖尿病、肝障害などを発症するリスク、感染に対して弱くなる、だんだん効かなくなる、途中でやめたくても1ヶ月は効果が続いてしまう | 口が痛くてそもそも薬を飲めない事がある、糖尿病、肝障害などを発症するリスク、感染に対して弱くなる、だんだん効かなくなる |
内服 | ||
抗生物質 | メリット | ステロイドよりは副作用が少ない |
デメリット | 効果がでる子も出ない子もいる、抗生剤耐性菌を作ってしまう恐れがある(できてしまうと非常に大きな問題) |
その他 | インターフェロン、免疫抑制剤、サプリメント、消毒、NSAIDs、レーザーなどの治療がある |
これら内科療法の中で最も一般的に行われている治療はステロイド療法であると思われます。 その理由は効果が大きく、治療費もそれほど高額にならないためです。 しかし上記した内科療法のいずれを行なっても、完治させることは通常難しいため、生涯にわたる治療が必要となります。
治療法: 外科療法(完治する可能性がある治療)
歯肉口内炎が治るためには以下の3つのコントロールが重要と言われています。
①細菌のコントロール
②歯根膜組織の除去
③歯の除去
その方法が
・歯周病治療:①を達成します。
しかし②③にはアプローチしていないため、原因が細菌による歯周病だった場合のみ治る可能性があります。
・全臼歯抜歯:①②③を部分的に達成します。約80%の子がこの処置で若干の改善〜完治します。約20%の子は症状が残ります。
・全顎抜歯:①②③を完全に達成します。全臼歯抜歯術で治らなかった20%の子に実施した場合、80%の子が若干の改善〜完治し、20%の子はそれでも症状が残ります。
つまり、全体の6−7%は全ての歯を取り除いても治りません。(これがまだこの病気が解明されていないと言われる所以)
注意:ステロイド療法をある程度続けてから外科療法に踏み切った場合は治療成功率が下がると言われているため、炎症が強い場合には治癒率を上げるために早期の抜歯術が推奨されます。