歯のブログ

無麻酔歯石除去についての考え方②

それでは私が考える①②③に対する答えを記述します。

①麻酔をかけてまで行うべきことなのか

HPにもたくさん書かせていただいていますが、歯の病気は全身の病気への第1歩です。

口の中に細菌がいっぱいいると(目に見えない部分で化膿している状態)その菌が色々な臓器へ影響を与えるため、歯を残す・失う、顎が折れる・折れないという次元の話ではなく、命を守る上で歯の健康は大切だと考えます。

過去には歯周病から肺炎に移行したであろう症例にも何例も出会ったことがありますし、(心臓や腎臓への影響も報告があります)歯周病治療を行ったことで全身状態が著しく改善して毛艶が良くなったり、食欲が増したり、明らかに様子が元気になったというお声をいただく機会は非常に多いです。

そういう子達に出会うたび、あ〜本当に歯の状態って健康に影響しているなと常々感じます。そういった例を無数に経験しているので、やはり歯の治療は受けた方が良いと強く思っています。それだけ重要だからコンビニより多いと言われるほど人間の歯医者さんもいっぱいあるわけです。

 

②麻酔をかけて行う治療と麻酔をかけない治療は何が違うのか

これもHP内でたくさん書かせていただいていますが、全く違う処置になります。

無麻酔で行えるのは【美容処置】(歯石取り)、麻酔をかけることで行えるのが歯周病治療などの【治療】。

 

歯周病を治療するには、マイクロスコープ、ペリオスコピー等を用いて歯茎の中までの徹底した清掃を行ったり、歯茎を切開して再生材料を詰め込んだりする必要があります。

麻酔をかけなければ拷問とも言える痛みに耐えさせることになってしまいます。

 

人では局所麻酔でこれらの処置を行うことができますが(人でも子供や治療を落ち着いて受けられ無い方などでは全身麻酔で歯科治療を受けることもあるようです)、犬猫の場合、局所麻酔だけでは体が動いてしまいます。いくら押さえつけても(押さえつけるなんて恐怖心を煽りますし、状態が思わしくない子を押さえつければそれにより亡くなってしまうことも考えられます)頭が動いたりすればメスやスケーラーといった刃物で思わぬところを傷つけたりするリスクがあり非常に危険です。

ですから見えている歯石だけを取り除けば良い「歯石除去」と呼ばれる行為と違い、安全に【治療】を行うためには全身麻酔が不可欠なのです。

 

また、正確な病態把握のためには検査が必要ですが、その検査も、歯を1本につき6ヵ所測定するプロービングや、フィルムを噛みながら撮影しなければならない歯のレントゲン検査を、起きている状態ではとてもできません。

プロービングでなければ気づくことが出来ない歯周病の状態(特に犬歯の内側)や、歯科用レントゲンでないと気づくことが出来ない歯の病気の状態(根尖病変など)、ペリオスコピー、マイクロスコープがなければ見落としていたかもしれない症例(マイクロクラックなど)に幾度も遭遇した経験を持つため、麻酔をかけた上での検査は必須であると考えます。

42本の歯、1本1本を1歯につき6ヵ所(計252ヵ所)のプロービングを、犬が起きている状態で出来るものなら是非誰かやり方を教えていただきたいぐらいです。

 

「動物だからこれぐらいで良いや」という処置で終わるのであれば、無麻酔でもある程度見た目だけきれいにして、しっかりした検査をしないで、いよいよ悪くなったら抜歯をするということになるのかと思うのですが、

私は動物であっても人同様にプロービングやレントゲン検査を行い、正しく評価した後、その結果に基づいた適切な治療を提供すべきと考えているため、当院では無麻酔歯石除去(無麻酔歯石取り、無麻酔スケーリング)を現状行っておりません。

 

③麻酔のリスクとは実際どれぐらいのものなのか

取り立てて大きな異常が無い子が麻酔で死亡する確率は犬で0.05%、猫で0.1%とされています(ASA分類参照)。

と言ってもイメージがつかないと思うので、例を挙げてみると、

 

「1年間に交通事故で負傷・死亡する確率が0.7%」だそうです。

交通事故にあいたく無いからコンビニに行かない、とか交通事故にあいたく無いから散歩に行かないという人はなかなかいないんじゃ無いかと思います。

 

「歯周病は3歳以上の子の80%がかかる病気」と言われています。体感としては8歳を超えたら100%近いのでは無いかと思っています。めちゃくちゃ高確率ですよね。年が上がれば当然その確率はどんどん高まります。①でも書いたように歯周病から様々な病気になるリスクがあるため、メリット・デメリットで比較した場合に、例え麻酔をしてでも歯周病治療を受けた方がその子やそのご家族にとってメリットが大きいと考える場合のみ歯科治療をお勧めしています。

 

また、忘れてはならないのが麻酔前全身検査の重要性です。

上記したように「取り立てて大きな異常が無い子」が麻酔で死亡する確率は犬で0.05%、猫で0.1%です。

「取り立てて大きな異常が無い子」なのかどうかは、しっかりとした術前検査を行わなければ分かりません。

血液検査だけではダメです。

 

当院では一般身体検査(視診、聴診etc)、完全血球計算、生化学一般検査、凝固検査、Echo検査、Xray検査、心電図検査(その他追加が必要な場合あり)を歯科処置を受ける全ての子に受けていただいており、これらの検査をもって、「取り立てて大きな異常が無い子」と評価出来た場合に麻酔をかけての検査・処置を行っております。(一部引っかかっても十分お薬等で対応できる場合には異常値があっても御受けするケースはあります)

 

麻酔は、きっちりと麻酔前全身検査や、十分な準備をした上で麻酔の管理を行えばそれほどリスクの高いものだとは思っていません。

ただし人間同様、リスクが0%では無いので、今回書かせていただいた①②③をご自身がどう考えられるかだと思います。この文章が、各ご家庭にとってbestな選択をしていただく一つの参考になれば幸いです。